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札幌時空逍遥

札幌の街を、時間・空間・人間的に楽しんでいます。 胆振東部地震お見舞い

2019/06/07

支笏湖逍遥 ⑪ クチャワッカナイ再考(承前)

 昨日ブログで、「クチャワッカナイ」の「ワッカ」がアイヌ語で「水」「飲み水」であると記しました。
 
 余談ながら「ワッカ」という語音から、aquaという英語を連想してしまいました。aquaというと、高校のとき読んだ吉田兼好『徒然草』を思い出します。
 神無月のころ、栗栖野といふ所を過ぎて、ある山里に尋ね入る事侍りしに、遥かなる苔の細道を踏み分けて、心細く住みなしたる庵あり。木の葉に埋もるる懸樋の雫ならでは、つゆおとなふものなし。閼伽棚に菊・紅葉など折り散らしたる、さすがに、住む人のあればなるべし。後略(第十一段、岩波文庫版1996年より)
 
 「閼伽棚(あかだな)」の「閼伽」が梵語に由来し、「水」という意味があることを知り、嬉しくなりました。「おお、閼伽はaquaと語源が同じにちがいない」と閃いたからです。徒然草が綴られたのは鎌倉時代末、14世紀とされます。その頃すでに英語と共通するコトバが日本にもあったことに、感慨を抱いたものです。
 aquaはラテン語由来であり、梵語(サンスクリット)とともにインドヨーロッパ語族であろうから語源が同じであってもフシギではないでしょう。と、ためしに「閼伽 aqua」で電網検索してみると同一語源は俗説という情報を見出しました。残念です。
 いわんや、ワッカとaquaにおいてをや、でしょうか。たまたま語呂が似通ったコトバはありますからねえ。北区篠路の郷土史家H先生は、アイヌ語のru(ル)、漢語の路(ルー)、英語のroadとの類似性を指摘されていました。

 さて、そのクチャワッカナイです。長見義三『ちとせ地名散歩』1976年は昨日ブログに記した語釈(狩小屋の・飲み水・沢)を載せた上、次のように記述べています(p.53、太字)。
 旧五万分の一地図ではユクトラシピナイの位置に「クチャワカナイ」とある。その上流に常時水があり狩人の小屋があったか。古老がそう呼ばないところを見ると、別な沢の名であったかも知れない。
 とすれば、きれいな水が流れ、そのそばに狩小屋をつくるような沢と言えば、モラップ・キャンプ場の小沼に注ぐものか。
(後略)

 同書に掲載された支笏湖畔の略図に、その位置が示されています(p.10)。
ちとせ地名散歩 支笏湖略図 南東部地名 
 本文で推測されたとおり、クチャワッカナイが記されているのはキャンプ場のあたりです。一方、昨日ブログの現在図で「楓沢」「三の沢」とされているところには「ユクトラシピナイ」「ユクルペシピナイ」とあります。本文によるそれぞれの説明は以下のとおりです(p.51、52)。
 ユクトラシピナイ
 (yuku-turasi-pinay シカが・それに沿って登る・かれ沢)
 (前略)
 南北に約四キロの譜かいきざみとなっているこのかれ沢は、樽前山ろくの樹林帯をつらぬく。軟弱な軽石流の地層のためほとんど直線である、集中豪雨の時以外水の流れのないかわいた平たんな川底は、けものにも人間にもこの上ない天然の道であったろう。(後略)
 ユクルペシピナイ
 (yuk-rupespe-pinay シカの・路がこれに沿ってくだる・かれ沢)
 モラップキャンプ場から約二キロ西のかれ沢。三百メートルほどさらに西にあるユクトラシピナイ(シカがそれに沿って登るかれ沢)と、ほとんど同じ長さで、しかも、それに並行して走っている。
(後略)

 前掲略図で示された位置関係は5月4日ブログに載せた『新千歳市史 通史編 上巻』2010年「地名解」の略図(p.127)のそれと同じです(略図と本文で表記が若干異なるが)。ただし、同日ブログに引用したとおり市史ではクチャワッカナイをユクルペシピナイの「別名」としています。
 
 またまた、こんがらかってきました。5月4日及び昨日ブログに記したことも含め、情報を時系列で整理します(太字傍線は引用者)。
・明治29年地形図:「クチャワカナイ」の記載あり。ただし一帯に沢はそれ一つ
・河野常吉編『支笏湖』1922(大正11)年掲載の地図:沢は二つ描かれ(現楓沢、三の沢の位置)、西側(楓沢)に「クチャワッカナイ」と記載
・長見義三『ちとせ地名散歩』1976年:「ユクトラシピナイ」「ユクルペシピナイ」を語釈。略図で現楓沢、三の沢の位置にそれぞれを記載。「旧五万分の一地図ではユクトラシピナイの位置に『クチャワクカナイ』とある」と記述
・『増補 千歳市史』1983年(旧市史):「:「ユクトラシピナイ」「ユクルペシピナイ」を語釈。「旧五万分の一地図にユクルペシピナイの位置に『クチャワッカナイ』とある」と記述
・『新千歳市史 通史編 上巻』2010年(新市史):「ユクトラシピナイ」「ユクルペシピナイ」を語釈。略図で現楓沢、三の沢の位置にそれぞれを記載。「ユクルペシペシナイ」に「別名クチャワッカナイ」と記述。

 結局、クチャワッカナイはユクトラシピナイの別名からユクルペシピナイのそれへと更新されたようです。現在の三の沢の別名ということになります。もっとも新しい新市史には「高橋長助の『支笏湖沿革史』には、1014林班 にあるこの涸れ沢は、上流に水が流れていて鹿の水のみ場であったと書かれている」とも書き添えています(5月4日ブログ参照)。

 ふたたび、国道276号樽前橋から三の沢を眺めます。
国道276号 三の沢 樽前橋から上流 2
 「上流に水が流れていて」というのは本当でしょうか。

 おりしも明日、支笏湖ビジターセンター主催で「楓沢探検ツアー」が催行されます。

http://shikotsukovc.sakura.ne.jp/kansatsukai/201906_kaede.pdf
 現地までの足があったら、参加したかった。

 どうでもいいことですが(拙ブログはどうでもいいことづくめだが)、ユクトラシピナイの「トラシ」が「それに沿って登る」というのも気になりました。trace:(動物・人が通った)跡、足跡 (道をたどって)行く、進む (歴史的、時間的に)さかのぼる(『カレッジクラウン英和辞典』1968年から)
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Author:keystonesapporo
1991年から札幌建築鑑賞会を続けてきました。
逍遥する時空:札幌、歴史、地形図、地理、地誌、地名、地形、地質、軟石、石蔵、硬石、採掘場、煉瓦、サイロ、腰折れ屋根、地神碑、墓地、旧河道、暗渠、メム、古道、微地形、高低差、クランク、境界、橋、歩道橋、電柱、バス停、踏切、古レール、神社の玉垣、小祠、二宮金次郎、戦跡、古い樹、河川網図、都市計画図、住宅地図……

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