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札幌時空逍遥

札幌の街を、時間・空間・人間的に楽しんでいます。 胆振東部地震お見舞い

2019/09/03

函館の笏谷石製の蔵 ②

 元町のギャラリーの主人・村岡武司さんは、函館は「風の街」から始まったと評します。
 函館平野を形作る陸繋砂州は、いかにも風の通り道です。中世ウスケシ(入り江の末端-末注①)の館に発する湊町もさることながら、縄文の太古、津軽海峡を挟んで文化圏が形成されたのも、海流や風のたまものと想えます。
 “天然の良港”とされる地形と風土は、すべてが順風満帆とはいえませんでした。風、急傾斜の山麓、高密度市街地は、ことごとく大火の条件を備えています(末注②)。函館の都市形成はとりもなおさず、耐火、防火のまちづくりでした。
 それを建築物の時系列でみると、おおまかに土蔵造→煉瓦造→鉄筋コンクリート(RC)造という流れです(末注③)。現存する建物で建築年代をみると、これまたおおまかには煉瓦造:明治40年代~大正期、RC造:大正期、昭和戦前期~と窺えます(末注④)。煉瓦造はもちろん明治40年代以前から建てられているのですが、金森赤レンガ倉庫(旧金森倉庫、旧日本郵船倉庫)、明治館(旧函館郵便局)などの大物はいずれも明治40年代です。これは1907(明治40)年の大火(焼失戸数8,977戸-末注⑤)がきっかけのようです。

 と、ここまで函館の都市形成史を建築物の構造から振り返ってきて、さて昨日ブログの続きです。旧田中商店(末広町-末注⑥)の蔵はなぜ、笏谷石を用いて建てられたか。
 建てられた1903(明治36)年というのは、近くの豊川町を火元として起きた明治32年大火(焼失戸数2,494戸)の4年後です。そのまた4年後には、明治40年大火。これををはさんで、付近では前述の金森倉庫など大型の煉瓦造が建てられました。さらに大正期に入ると、こんどはRC造が普及します。田中商店倉庫も、石造の右隣に遺る蔵は1923(大正12)年、RC造で建てられました。同商店はさらに、店舗もRC造で旧東浜町に建てます。
旧田中商店 店舗
 この店舗が建てられたのは1930(昭和5)年頃です(末注⑦)。ちなみに、その4年後の1934(昭和9)年には焼失戸数24,186戸、死者・不明者2,670名余という大・大火が起きます。

 こうしてみると、明治36年石蔵は、土蔵造、煉瓦造、RC造の間隙をぬって、いわば瞬間風速的に出現したかのように私には想えます。結果的に、同商店の建物はその後の大火をくぐり抜けてきました。その当時として最善・最新の選択肢を抽出したといえるのではないでしょうか。
 想像の羽をさらに延ばします。
 明治20年代、北海道のもう一つの港町・小樽ではさかんに大きな石造倉庫が建てられていました。手広く海産物を扱う問屋のこと、店の主人は小樽の風景も目にしていたことでしょう。「これからの蔵は石造りだ」と想ったのではなかろうか。
 ではなぜ、それが「笏谷石」だったか。ひととおりの答えは昨日ブログで述べたのですが、もう少しこだわります。
 
 注①:山田秀三『アイヌ語地名を歩く』1986年、pp.94-95「函館の旧市街」
 注②:「明治2年から大正に至る約50年間に100戸以上焼失の大火が25回、2年に1回の割合で経験した」。吉村冨士夫「函館と大火」『函館の建築探訪』1997年、p.146
 注③:同上書を参考とした。なお、組積造であっても外壁を塗り込めて一見土蔵風に見せかけている建物も少なからずあり、外観だけで識別するのはむずかしい。越野武『北海道における初期洋風建築の研究』1993年、p.247、2014.12.17ブログ参照
 注④:函館の人口重心は歴史的に、函館山麓→函館駅界隈→五稜郭周辺と、西から東に移動している。山麓だけをみても、前掲『北海道における初期洋風建築の研究』によると、江戸時代は西端の弁天町が中心だったものが、幕末から明治にかけて東方の末広町へと移ってきた(p.250)。その契機は1878(明治11)、1879(明治12)年の大火であったとみられる。同書は、大火後も西方の弁天町や大町は「伝統的な土蔵造りまたは塗屋形式に固執」する一方、東方の末広町の新興商家は「信頼の煉瓦造と洋風意匠を実現した」分析する(同上)。
 注⑤:前掲「函館と大火」『函館の建築探訪』p.147。以下、大火の焼失戸数等は同書にもとづく。
 注⑥:旧町名は船場町。前掲『北海道における初期洋風建築の研究』p.238ほか参照
 注⑦:前掲」『函館の建築探訪』p.48
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Author:keystonesapporo
1991年から札幌建築鑑賞会を続けてきました。
逍遥する時空:札幌、歴史、地形図、地理、地誌、地名、地形、地質、軟石、石蔵、硬石、採掘場、煉瓦、サイロ、腰折れ屋根、地神碑、墓地、旧河道、暗渠、メム、古道、微地形、高低差、クランク、境界、橋、歩道橋、電柱、バス停、踏切、古レール、神社の玉垣、小祠、二宮金次郎、戦跡、古い樹、河川網図、都市計画図、住宅地図……

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