札幌時空逍遥

札幌の街を、時間・空間・人間的に楽しんでいます。

2015/01/15

札幌音楽院、ありき。

 引き続き札幌建築鑑賞会通信「きーすとーん」第69号の余録です。
 
 毎年この時期に出す通信には、この1年間に姿を消した建物のことをスタッフNさんが綴っています。バックナンバーを振り返ると、2003年1月に出した第29号で「2002年 追憶の建物たち」を載せたのが最初です。以来12年、このシリーズは札幌の街並みの転変を物語る貴重な史料になったと思います。

 今号で取り上げられている一つが、南9条西8丁目にあった「札幌音楽院」です。
 札幌音楽院
 荒谷正雄さんがここに音楽院を作ったのが1948(昭和23)年、以来多くの音楽家が巣立っていきました。ここは1961(昭和36)年に発足した札幌交響楽団の揺籃の地ともいえます。
 昨年4月、建物解体前に内部を見せていただいたとき、残っていた古い電話帳や新聞の発行年月から、昭和戦前期の建築と推測しました。
 古い記事の切り抜きも多く残っていて、その中に荒谷さんへのインタビューが載っているものがありました。1977(昭和52)年11月2日北海道新聞夕刊です。文中「札幌市中央区の自宅居間。『四十六年も経た古い家で』というが家具・調度品や壁の装飾品など、あるべきところにどっしり収まった落ち着きがある」と記されています。
 引き算すると(1977-46=1931)、この建物は1931(昭和6)年に建てられたことになります。1931年というのは荒谷さんが札商を出て東京の「帝国音楽学校」に進んだ年です(「わたしの道 荒谷正雄<その3>」北海タイムス1972年10月19日、聞き手は能条伸樹記者。この切り抜きも荒谷さん宅に残っていたもの)。この自宅はご先代が建てたものでしょう。
 横羽目板貼りにスティックスタイルのいわゆるドイツ壁。
 
 これにナントモ不釣り合いな玄関部分です。
 札幌音楽院②
 むくり破風に棟飾り、懸魚、竪繁の欄間。
 
 荒谷さんは1934(昭和9)年に音楽学校を卒業し、東京で新居を構え、1936年にウィーン(後にスイス、ベルリン)に留学します。帰国したのは1945(昭和20)年7月。そのときのことを次のように語っています(前掲「わたしの道 <その8>」)。
 心身ともに疲れた私たちだったが、その目にも札幌の街はひどくうす汚れ、みじめにみえた。生後間もなく母に預けたままであった長女は十歳になっていた。次兄が家業(引用者注:荒谷さんの父は陶磁器商を営んでいた)の一部を継いでいたが、すでに父や長兄は亡く、母が娘とともに住んでいた現在の家に、私たちは落ち着いた。
  
 また、札幌音楽院設立当時のことを次のように述べています(「私のなかの歴史 音楽六十年⑤」北海道新聞1987年4月2日、聞き手は前川公美夫記者、この記事も自宅に残存)。
 殺伐とした時代に、何とかしなければという思いがつのり、二十三年(引用者注:1948年)に開設にこぎつけました。ほかに場所はありませんでしたから、教室はわが家の二階です。二階全部を開放しました。 
 このドイツ壁は、帰国してから荒谷さんが改造したものだろうか。ドイツ壁というのは「南京下見」などと同様、俗称だと思いますが、ベルリンから帰ってきた荒谷さんがドイツ壁というのも、話ができすぎているが…。3階部分の陸屋根はどうみても、戦後かなりたってからの増築と思われます。左方の切妻の破風は、逆に昭和戦前期の和洋折衷住宅の応接部を思わせます。

 敷地の東側には軟石の塀、その奥には煉瓦造の蔵もありました(2014年3月撮影)。
札幌音楽院 軟石塀、煉瓦造蔵
 軟石の塀は突端部がモールディング(波繰形)されていました(こういうS字曲線型をサイマレクタというらしい)。このアングルの画像で気が付いたのですが、建物側面にも切妻の破風があり、しかも懸魚様のモノが付いています。

 お風呂場に架かっていた陶板画です。
お風呂場 陶板画
 縁起物ですね。一冨士、二鷹…と。左下の「九谷造」の落款が「三茄子」でした。茶目っ気がある。

 昨年の7月に跡地に行ってみました。
札幌音楽院跡
 新たに建物が建てられるようです。
 あの陶板画はどうなったのかな…。
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1991年から札幌建築鑑賞会を続けてきました。

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